フライブルク音楽大学の入学試験に無事合格し、現地で生活を始めたのは98年春でした。行きの飛行機では、確か不安で泣いていたっけ。初めての海外生活は、もちろん心細いものでした。
生活を始めてみて、まず直面したのは語学の問題。ヴィザの手続き、学校の入学手続き、大家さんとのコミュニケーション、スーパーでの買い物、あらゆることをドイツ語でクリアしないと生きていけませんでした。当たり前ですが。最初に感じたのは「日本のゲーテ(語学学校)で用意していったドイツ語なんてちっともヤクにたたない!」というか、、「今の私のドイツ語能力では、分からないことの方が多すぎる」という愕然とした気持ちでした。
右も左も分からない世界では、引きこもるか、体当たりで外に出て行くか、どっちかしかないんです。言葉がわからない、その情けないことと言ったら…自分は、まるで生まれたばかりの赤ん坊のようだと感じていました。日本人の友達は助けてくれましたが、いつも頼るわけにはいきません。そこで、私はカバンに和独&独和辞書をいつも入れて持ち歩くことにしていました。銀行で口座を開いたりするのに判らない単語がでてきたら、ちょっとその場を失礼して、隅っこの方へ行って辞書をゴソゴソと出して、調べるのです。その時間のかかること!
渡欧して数ヶ月経った頃でしょうか。まず、言いだせるようになったフレーズは「Ich verstehe nicht」でした。英語でいうと「I do not understand」=「私は、理解していません」。会話の途中で、こんなこと言いだしたら、会話の流れがストップしてしまうのは100も承知。でもこうやって、会話を一度遮って「今の単語、何ですか?」とか「ゆっくりしゃべってください」と言えるようになると、相手もペースを合わせてくれ、徐々に言葉の理解度が増していくのがわかりました。最初は、なかなか言えなかった「Ich verstehe nicht」。これを躊躇せずに言えるようになった頃には度胸もつき、ぐんぐん新しい単語が入ってきた、と自分でも思いました。